Column
コラム
[Special Talk]今時世代から見た宙のドームとは

宙のドームを展示会に出展する機会が多かった今年、とある展示会で一人の学生と出会いました。
彼は名古屋の専門学校に通い、プロダクトデザインを勉強しているのだとか。
担当講師に連れられてブースに訪れた複数の学生の中でも、一際、宙のドームに関心を持っているように見えたその学生を、ブースの責任者だったデザイナーの小笠原は、豊田ショールームで宙のドームの現物を見てみないかと誘ってみたのです。こうして、今時世代の若者との対談が実現しました。


対談当時、彼は卒業制作の真っ最中で、自身の研究をどう突き詰めていくか思案していました。
どんな研究内容か尋ねてみると、人と人が、話し掛け、話し掛けられ、そうやってコミュニケーションの輪が広がっていく空間の提案をしたいとのことでした。SNSなどではなく、対面での、人と人との繋がりを大事にしたい、そんな思いを胸に、初対面や、ちょっと通りがかっただけのような関係性でも、思わず話し掛け、そこからコミュニケーションが広がっていく空間を作るにはどうすれば良いか、デザイン案を書き留めた多くの資料からも、彼の試行錯誤の様子が見てとれました。

熱心に自身の研究について説明をする彼の中に、しっかりとした芯があるように見てとった小笠原は、かつて大学院で自身の研究に悩んでいたことを思い出しながら、彼へ、彼の研究の核心をつく質問をしました。
「そもそも人は、どういう状況であれば、見ず知らずの人に話し掛けるのか?」
「思わず話し掛けてしまうその状況を作り出すには、どんな要素が必要なのか?」
「その要素を取り入れた空間を、プロダクトデザインに落とし込むにはどうしたらよいのか?」と。
この問題について、自身の中に明確な答えがない限り、どんなデザインをしても、結果に納得はできないだろうと諭しました。また、これらの問題について自分なりに結論を出せば、自ずと卒業制作は完成するものだ、とも付け加えました。
それを聞いた彼は、とても晴れやかな表情になって、「なるほど!」と、自分の中で何が絡まって解けないのか分からずにいた今までとは打って変わったように、成すべきことを悟ったようでした。
それを見た小笠原は、彼の中のとても強い芯を確信したのでした。

彼が展示会で宙のドームを見たのは、まだ自身の研究に行き詰まりを感じていた時のことでした。
広大な会場で多くの出展が集う展示会の中で、宙のドームのブースは一際異彩を放っていたといいます。
当時の展示会ではブース面積の都合上、ドームの一部だけを展示していました。にも関わらず、その圧倒的な意匠感に驚きを隠せなかったのだとか。
思わず、「これは何ですか?」と尋ねたくなった時、自分が目指している研究テーマの、一つの結論を目の当たりにした気分になったのだそうです。

宙のドームには、思わず人を惹きつけてしまう力があると、小笠原は感じていました。
昨今のグランピングブームに乗り、ジオデシック構造のドームをよく目にする機会は増えました。それでもまだ、このドームを目の当たりにした人は、「これすごいね!」と声を掛けてくださることが多いのです。
宙のドームの製作部スタッフの話によると、豊田ショールームでドームを組み立てている途中、道行く人は必ず足をとめて、「なんかすごいもの作ってるね!」「何を作ってるの?」と、ひっきりなしに声を掛けられたんだとか。出来上がったらまたすごくて、「すごいものができたね!」「中はどうなってるの!?」と、敷地内まで入ってドームを覗きに来てくださったそうです。
見た目の圧倒的意匠感と、時代の価値観や認知度などに左右されることを前提としつつも、どこか非現実感が漂うその空間は、多くの人の関心を惹きつけて止まないのだと、小笠原は考察していました。
まさに、思わず人が足を止めて、思わず声を掛けてしまう。そんな人と人との繋がりを体現しているのが、宙のドームなのです。

宙のドームのリリース以降、当然、商品として取り扱ってきた我々は、宙のドームの価値を如何に見出すかを考えてきました。またお客様にその思いを伝えることに尽力してきました。主にグランピング関連の方々に注目していただくことが多いですが、それ以外にも、オフィスとしての利用を検討してくださる方など、宙のドームは商品としての価値を、どんどん高めていくことができると考えていました。
そんな中で、利害の縛りが一切ない、学生という、純粋にデザインにひたむきな姿勢を持つ立場の彼と出会い、今まで我々が宙のドームに商品として見出してきた価値とは違う別の魅力を、彼は感じているかもしれないと小笠原は思ったのでした。
彼と話してみるとやはりその通りで、今までお話しさせていただいた方々とはまた違った、宙のドームに対する「すごい!」を感じてくれているようでした。

今回の対談に際し、彼は自身のポートフォリオを持ってきてくれました。そのどれを見ても、一つ一つの課題に真っ直ぐ真剣に、また真摯に取り組んでいる姿勢がはっきりと見てとれました。
お決まりの質問のようで少し憚られる気持ちもあったのですが、彼が目指す将来に純粋に興味があり、
「将来はどんなデザイナーになりたい?」と尋ねてみました。
「これは夢なんですけど、」と切り出した、彼が将来に思い描いているものは、この年齢でよくそこまでしっかり考えているものだと関心するものでした。
最後に彼は、「喜びを生み出すデザイナーになれたらいい、そういう価値を生み出せることをすごいことだと思う。」と言い、少し恥ずかしそうに笑いました。
きっと、やってのけるのだろうな。と内心に思い、照れ笑いをしながらも、将来の夢をはっきりと言葉に出すことができる彼を、一人のデザイナーとして尊敬したのでした。
